私の通う小学校には「4年生から一人で自転車に乗って良い」という校則がありました。
4年生になった春のある日、私はウキウキして自転車にまたがり、家の周辺のサイクリングに出かけました。
風を切り、春の暖かさ、一人の自由さ、少しの緊張感を感じながらいつしか知らない土地に入っていました。
そこは一面に広がる「れんげ畑」でした。一面ピンクに染まり私は思わず「きれい!」と叫んでいました。
今まで見たことのない景色に心が躍り、しばらく見つめていました。
「母に早くこの場所を教えてあげよう」と急いで自転車で来た道を戻りました。
ご飯の支度をしていた母に「お母さん!れんげが沢山咲いているところがあったの!一面!ピンクでね!すっごくきれいなの!」と息を弾ませながら伝えました。
母は、私に背中を向けたまま「あらそうなの。それはれんげ畑ね。珍しいものではないわよ」と言い、忙しそうに料理を続けました。
私はがっかりして寂しさが込み上げてきました。
母が「そうなの?それはどこ?すごいじゃない!」と言ってくれるのを期待していたのです。
「こんな夢のような綺麗な世界、今まで見たことなかったからお母さんにも見てもらいたいな、喜んでもらいたいな」という思いが強かったのだと思います。
先日実家に帰った時、母が庭で育てた花を一緒に見ながら子どもの頃の話をしました。
子育て中は余裕がなかったんだなと、年老いた母を見ながら思い「育ててくれてありがとう」と感謝の気持ちが湧いてきました。
子どもの頃に果たせなっかた「感動を母と一緒に分かち合いたい」想いを今果たしている私を愛おしく思う日でした。
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